PROJECT STORY 01
新規アグリビジネス参入支援プロジェクト

苺の栽培で、雇用の課題を解決する

銀行と農業。少し聞き慣れない組み合わせですが、当行では「アグリ分野」でさまざまなご提案を行っています。
豊かな自然が広がる千葉県は、農業に関して大きなポテンシャルを秘めています。
お客さまにどんな課題があり、なぜ農業なのか、一つのプロジェクトから紐解いていきます。

宮本 英利
営業支援部 調査役(アグリビジネス)
2008年入行

経済学部に所属し、「金融研究会」サークルの活動に力を入れていた学生時代。サークルでの学びをきっかけに自分のやりたいことを突き詰めていた。そこで、経営者と向き合い、大きな仕事をやりたいと考え、金融業界に絞って就職活動を行う。そのなかで、ちば興銀を訪れた際、生き生きと働く若手行員を見て、若いうちから色々な仕事を任せてもらえそうな期待感を持ち、入行を決めた。

STORY 01
“運送業”のお客さまから
農業参入のご相談

私が所属する「営業支援部」は、本部機能として支店だけでは解決しきれない専門ニーズにお応えする部署です。事業承継、国際業務、医療、外為、M&Aなど、あらゆる専門家が所属し、お客さまの顕在化しているニーズから潜在的ニーズまで幅広く相談に乗り、お客さまの課題を解決していきます。支店の行員と同行することも多く、本部のなかで一番お客さまと接する部署です。
そのような部署で私はアグリビジネスを担当しています。平たくいえば農業分野のコンサルティング業務です。すでに農業に取り組まれているお客さまにご対応するのはもちろん、農業に取り組んだことがないお客さまに対して農業参入をご提案することもあります。現在は、4名体制のチームで活動をしており、農業指導の経験を持つ千葉県庁OBの方に嘱託行員として技術的なサポートをいただきながら、さまざまなご提案を行っています。
各支店の行員が、農業に関するニーズをお伺いすると、私たちに支援要請し、支店と本部が一体となってコンサルティングを行います。そうした業務を行うなか、ある時、当行と古くからお付き合いのある“運送会社”さまからご相談がありました。農業を全くやったことがない、新規参入を希望されるお客さまです。当行では技術的なサポートもできますし、長年アグリビジネスに携わってきた分、マーケットが求める品目も分かっています。計画段階からしっかりとフォローをすれば、後は栽培するだけです。しかし、新規参入だったため、そう簡単に事を運ぶことはできませんでした。

STORY 02
新規参入に立ちはだかる
「農地」の壁

その運送会社のお客さまが、農業に参入したいとお考えになったのには、いくつかの理由がありました。例えば、ドライバーさんの定年に関わる課題です。運送業のドライバーという仕事は、安全性の観点から高齢になるまで続けられる仕事ではありません。この会社の経営者の方は、高齢になったドライバーさんがトラックを降りたとしても、働き続けられる環境をつくりたいと、お考えになっていました。また、もし本業に何かあった時のために、もう一つ柱となる事業があれば、経営の安定化も図れます。そこで、千葉県で大きなポテンシャルのある農業に注目し、雇用課題をクリアしながら、新たな収益確保を目指そうという話になったのです。また農業は、地方創生やSDGsなどにも貢献できる可能性を秘めています。
そこで私は、苺の栽培をご提案させていただきました。その理由の一つは、ビニールハウスで栽培ができるからです。ビニールハウスであれば天候に左右されにくく、収穫が安定しやすいのです。また、苺が嫌いな人はめったにおらず、売りやすく、単価も高く設定できます。さらに、苺狩りといった観光農園として営業することもできます。
このご提案内容にお客さまは快諾されたのですが、新規参入だからこそ立ちはだかる壁に当たってしまいました。それは、「農地」の問題です。日本では農地を借りることも、買うことも、そう簡単ではないのです。栽培品目は決まっても、育てる土地がなければどうしようもありません。

STORY 03
農地の貸主の想いにも寄り添う

日本には、農地に関する規制が存在します。もし、農地を売ったり貸したりして、その農地を農業以外に使用すると、自給率が下がってしまうからです。つまり、農業を守るために農地に関する規制があるのです。ただ、私たちには長年のノウハウがあり、自治体や不動産会社とのつながりもあるため、農地を探すことにさほど苦労しませんでした。しかし、別の問題がありました。それは貸主が農地を貸すことに対し、簡単には首を縦に振らないことでした。
ハウス栽培は投資額が大きくなる分、借主は農地を長く借りなければ投資回収できません。一方、貸主は農地を長く貸す契約をして、もし途中で借主がいなくなってしまうと、残されたハウスの処理に莫大なお金が掛かってしまいます。また、借主が土地のメンテナンスを怠ってしまうと、貸主は農地として利用できなくなってしまうこともあります。
貸主はそのようなことを心配し、農地を貸すことに抵抗があったのです。貸主にとっては、先祖代々受け継がれてきた大切な農地です。私も農業に携わる者として、貸主の想いは十分に理解できます。しかし、運送会社の経営者の方の熱い想いを聞いていた私は、諦めることができませんでした。そこで、双方に納得いただける折衷案を何とか導き出していきました。例えば、ビニールハウスの耐用年数は14年ですが、更新を前提に契約期間を耐用年数の半分の7年にすることを提案しました。このように根気よく対応することで、お客さまは無事、農業に参入することができました。

EPILOGUE
「銀行がする提案ではないね」
という
お言葉に価値がある

その運送会社の経営者は、二代目の方でした。先代から引き継いだ会社なので、何か自分でも事業を立ち上げてみたいとおっしゃっていました。また、地元に長く根付いている企業だからこそ、自分の代で恩返ししたいという想いもお持ちでした。そういった熱い想いをお伺いしたからには、何とかお応えしたい。このプロジェクトには、そんな気持ちで取組みました。
お客さまと一緒に進めていくなかで、特に印象的だったのは、「銀行がする提案ではないね」と言っていただいたことです。もちろん、いい意味でです。お客さまからすると普段、資金の相談をする銀行から、事業を立ち上げる提案がくることは意外だったのかもしれません。そう言っていただけると、本当にこの仕事をしていてよかったと思います。
また、農業を全くやったことのない別のお客さまが、私のご提案後に、家庭菜園を率先してはじめたと聞き、アグリ分野を心から認めていただけたようで嬉しかったです。
今は、農業というツールを使って業務を行っていますが、ここで身につけた柔軟な発想は、さまざまな場面で応用できるものだと考えています。今後、別の専門分野に携わることや、支店で営業を行う役目に就くこともあるでしょうが、農業×銀行で培った提案力を活かして、営業の最前線に立ち続けていきたいと思います。