親族内承継のメリットやデメリットを徹底解説。
流れや承継のポイントもご紹介。

親族内承継とは

親族内承継とは、経営者が自分の子どもや孫、甥や姪といった親族に会社を引き継ぎ、経営を任せていくことです。自分が創業した会社や先代から引き継いだ会社を親族にバトンタッチしたいと考える方は多く、日本ではもっとも一般的な事業承継といえます。親族内承継は親族の中から適任者の調整や、または教育を行う必要があり、複数年単位で時間が必要です。「まだ自分は元気だし、現役で働けるから事業承継なんて先の話」と考える経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、現経営者が元気なうちに準備を始めることが親族内承継において非常に重要であることだと意識してください。では、具体的に親族内承継のメリットとデメリットを見ていきましょう。

親族内承継のメリット

周りからの納得を得られる場合が多い

中小企業においては親族内承継が既定路線となっているケースが多く、その場合は人間関係のトラブルもなくスムーズに承継できる可能性が高いです。後継者候補が明確に決まっており、後継者本人にも経営を引き継いでいく意思があるなら、早い段階で会社内・取引先・金融機関などに周知していくことが大切です。「この人が後継者だ」と早い段階から認識することで周囲は納得でき、後継者は次の経営者として信頼されやすくなります。「今までよく知らなかった人が突然後継者として挨拶にやってきた」場合と比べて大きな違いがあるのは間違いありません。
さらに重要なことは、後継者本人が経験を積むための時間と教育です。生まれつき経営の才能がある人は稀であり、多くの人は現在の経営者のもとで様々な経験を積み、責任を果たす中で経営者としての自覚と能力を磨きます。また、会社内で経営の経験を積むことも重要ですが、様々な視点を持って会社の今後の可能性を伸ばしていくためには、社外での経験も重要になってきます。場合によっては取引先など別の企業で修行をする、もしも経験がないならば現場の仕事に関わるなど、経営以外の経験を積む必要もあるかもしれません。ひとつずつ準備していきましょう。

贈与、相続の制度を活用しやすい

高齢化が進む日本において事業承継は国家的な課題です。このため、事業承継を進めやすくするための税制措置が存在しています。たとえば2021年6月現在、上場していない中小企業の株式を承継する場合に、一定の条件を満たせば贈与税・相続税納付の猶予や免除が可能です。親族内に後継者がいて周囲からも認められていれば、このような税制上の優遇措置を活用しやすいです。

参考:国税庁「法人版事業承継税制

親族内承継のデメリット

後継者の家族から反対されるケースもある

後継者自身が承継したいと考えた場合、家族から歓迎されるケースもありますが、逆に反対されるケースもあります。経営者になると、金融機関から事業資金を借り入れる際に保証人になることを求められることがあります。そのような責任を負う立場になることに後継者の家族が慎重になるのも珍しくありません。後継者の家族の率直な気持ちが聞けるよう普段からよい関係を築いておきましょう。

(後継者が別会社に所属していた場合)
後継者が別の会社文化の影響を強く受けていることが軋轢に繋がる場合がある

後継者と今まで働いていてくれていた従業員との間でコミュニケーションがうまくいかないこともあります。その原因として考えられるのは、後継者が以前勤務していた別の会社の文化と、引き継いだ会社の文化との不一致です。このような事態になると従業員のモチベーションが低下したり、重要な人材が退職したりするなど経営に重大な影響が及ぶこともあります。こうした問題を防ぐためには、まず事業承継には相応の時間が必要との認識をもつことが大切です。時間をかけて後継者を育成し、後継者を自社の文化になじませるとともに従業員や取引先にも周知できれば、トラブルを最小限に抑えられます。

親族内承継を考える際の3つのポイント

早期に準備を始める

事業承継の中でも親族内承継は簡単だと思われがちです。経営者にとって親族は以前からよく知っている相手であり、また日本で親族内承継は一般的であることがその理由でしょう。しかし、親族内承継は思った以上に時間がかかることを認識しなくてはなりません。親族内承継で生じる人間関係や相続のトラブルの多くは準備不足に原因があります。
まず、後継者候補に経営者としての自覚を促し、教育しなければなりません。現場の仕事を知り、リーダーシップを発揮する経験を積み、経営者としての自覚を高めていくには年単位の時間がかかります。
さらに社内・取引先・金融機関に後継者を周知し、関係者にも「この人は経営者として信頼できる」「一緒に頑張っていこう」と思ってもらう必要があります。焦って進めると関係者に不信感を生じさせる恐れがあるため、早期に準備を始めて、時間をかけ信頼を育てていきましょう。彼らに信頼されることが後継者の自覚を高めるという側面もあります。

後継者以外の親族への周知や相続の配慮

事業承継は相続と絡み、トラブルに発展してしまうことがあります。特に後継者とならない親族は後継者に対して不満や嫉妬を感じ、場合によっては後継者争いになる可能性もあります。親族への周知や相続面の配慮を行いましょう。
承継に伴って経営者の個人資産を引き継がせる必要が生じることもありますが、注意しないと別の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分は遺言によっても侵害できない法律上保証された相続財産ですから、後継者が遺留分侵害額請求を受けないよう、慎重に考慮しなければなりません。事業用資産以外の資産を正確に把握し、遺産分割の方法を検討しましょう。
ただし事業承継の場合は遺留分について民法の特例が設けられています。後継者と現経営者の推定相続人の全員が合意すれば、現経営者から後継者に贈与等がなされた自社株式について、遺留分算定の基礎となる財産から除外することや(除外合意)、遺留分算定の基礎となる価額を合意時のものに固定(固定合意)することが可能です。固定合意をすると、後継者の経営努力によって株式の価値が上昇してもその分が遺留分侵害にならないので、後継者の経営意欲を伸ばせます。

参考:中小企業庁「遺留分に関する民法の特例

個人保証への対応

会社が金融機関から借り入れをする際に経営者の個人保証がしばしば行われます。事業承継の場合は後継者に個人保証をという話に繋がりますが、金融機関との交渉が難航する可能性があります。金融機関は現経営者の経営手腕を信頼して融資を行っているからです。早期に後継者を周知して金融機関との信頼関係を築いていきましょう。

親族内承継の流れ

STEP1 : 後継者の選定・教育
STEP2 : 株式の承継準備
STEP3 : 周囲への周知
STEP4 : 遺言・生前贈与の対応
STEP5 : 保証等への対応

事業承継のお悩みや相談はちば興銀へ

オーナー会社の経営者にとって、事業承継は会社の成長にひけをとらない重要な経営課題です。親族内承継は周囲の理解を得やすい点や法律的な点でも、比較的スムーズに進めやすいといえますが、ひとつ間違えると人間関係が悪化するなど注意を要する場面もあります。また、税制などのしくみは複雑で、自分で判断するのは大変という場合もあるでしょう。ちば興銀では事業承継のさまざまなご相談に応じるサポート体制を整え、経営者の方の不安を解消するお手伝いをしています。事業承継の鉄則は現経営者が元気なうちに始めることです。

陣内 壮(じんのうち そう)

陣内 壮(じんのうち そう)

生年月日:1991年3月20日
資格:中小企業診断士、MBA(経営管理修士)
明治大学経営学部を卒業後、中小企業診断士及びMBA(経営管理修士)を取得。 資格取得後は、大手企業中心とした支援に従事