健康経営とは?企業が健康経営に取り組む意義について解説

「健康経営®」(※)は、ここ数年の広がりによって、多くの方が耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。一方で、言葉は知っているけれど内容はわからない、わかっているけれどスタートを切れずにいる、といった声も聞くことがあります。
今回は、健康経営についての内容をご紹介しつつ、なぜ健康経営に取り組むのか、について説明をしていきます。健康経営を知りたい、これから取組みを始めようと思っている、今の取組みを見直したい、そういった企業や法人のみなさまに有益な情報になればと思っています。

  • 健康経営®はNPO 法人健康経営研究会の登録商標です。

健康経営とは?

健康経営は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に健康づくりを行なうことです。経営課題はわかっているのになかなか解決しない。そんな悩みを抱えている企業の多くは、まずは従業員に目を向けてみてください。従業員のみなさんは健康ですか?健康診断の結果で、自社では何が課題となっていますか?何か従業員に向けて健康のための支援をしていますか?
例えば、従業員が元気で健康的に働くことができれば、個人の能力をいかんなく発揮し、生産性が向上することで、企業が持つ課題の解決につながり、最終的には企業の増収が期待できます。増収となれば、従業員のためにさらなる健康づくりの投資ができるという正の循環が生まれます。また、企業の価値が上がることで、新しい取引先が増える、この企業で働きたいと思う人材が集まる、などにもつながっていきます。企業がもつ課題は、健康経営を推進することで解決していきます。従業員に向けて企業側が健康づくりをすることが、これからの経営を支えていくうえで、非常に重要となっています。

参考:経済産業省 令和4年6月 「健康経営の推進について」資料より

従業員からみた健康経営

では、もっと健康経営を分かりやすくイメージするために、いろいろな視点から考えてみましょう。
まずは従業員からみた健康経営です。
大きな夢を抱いて入社をしてきた従業員。毎日の仕事を意欲的に進め、会社に貢献してくれます。年月を重ね、役職につき、チームをまとめることで組織に対して責任が生まれ、より一層会社のためにがんばらなければ、という想いが募ります。すべての従業員が順風満帆に行くことが望ましいですが、就労の過程で何かしらの問題や課題に直面し、不安や悩みを抱え、ひどくなれば病気や離職となってしまう方もいます。
例えば、従業員が健康診断で何かしら問題があった時に、本人は少なからず不安を感じるはずです。しかし、病気と仕事を天秤にかけた時に、果たしてどちらを優先するでしょうか。
検査での異常があった、病気かもしれない、でも重要な仕事があるのでそちらを優先する、ようやく時間ができ再検査に行った時には重篤な状態だった。人は年齢を重ねるごとに、病気となるリスクが上がります。重要な仕事を担う時期と病気のリスクが上がる時期が重なってしまうことは少なくありません。
これまで会社が従業員の健康は個人の責任であり個人任せ、という対応をしてきたことで、従業員は自身の健康をなおざりにしてしまい、休職また離職することで会社を離れなければならない事例も多く発生してきました。大きな組織であれば、一人の離脱はお互いがカバーすることで賄うことができるかもしれませんが、規模の小さな組織にとっては、一人でも減ることは大きな痛手となります。
では、従業員が何かしら問題や課題に直面した時に、会社側にそれをサポートする体制があったらどうでしょうか。例えば、先に述べた健康診断で有所見であった場合に、再検査の受診に特別休暇が付与される、もしくは受診時間は就業時間として認定されるという制度があれば、従業員も再検査を受けに行く際に休暇取得の必要や職場を離れることへの罪悪感なく、自身の健康と向き合うチャンスが生まれます。ワーク・ライフバランスの実現に向けた、勤務時間や場所などの選択肢がある柔軟な働き方の導入や、コミュニケーション活性化のためのイベントの実施など、職場の風土を良くすることで、メンタルヘルス不調に対する対策となっていきます。
このように会社側が積極的な施策を実施する事で、従業員の健康を後押しする、これが「健康経営」を推進することとなります。従業員にとっては、企業が自分たちの健康を考えてくれている、と感じることで、よりいっそう仕事へのモチベーションとなり、元気にいきいきと働くことにつながっていきます。

経営者からみた健康経営

次に、経営者としての健康経営をみていきましょう。経営者としては、企業の価値向上、業績が上がり、組織を成長させることが重要な課題です。この課題を掘り下げていくと、一つひとつの仕事で会社を支える従業員の業務パフォーマンスに細分化されます。では、従業員の業務パフォーマンスは、日々高く発揮されているでしょうか。もし、発揮されていない場合には何か原因があるのではないでしょうか。病気などを理由に休職する従業員だけでなく、出勤しているのに睡眠不足や腰痛などの影響で生産性が低下し、仕事に影響が出ていることがあります(プレゼンティイズム)。このプレゼンティイズムの状態は、過失や労働災害を引き起こす原因となり、企業にとっては大きな損失につながり、業績の悪化や企業価値の低下を引き起こします。
従業員の業務パフォーマンスを阻害している原因は多岐に渡ります。その中で、「健康」という課題に着目し、会社が従業員の健康を良くする取組みをする、それにより従業員の業務パフォーマンスが向上することで、経営課題解決への体力がついていきます。労働者人口が減少していく中で、従業員一人ひとりの健康を会社が責任をもって管理をしていくことが、会社を支えることに直結していくのです。
このように、従業員の健康づくりを行なう先には経営課題とつながりをもっているということが、見落としがちな点です。経営者としては、会社の未来を見越した時に、自社の従業員はどのような従業員であってほしいか、それを実現するために何をすべきか、を考えたうえで、経営者自身が旗振り役として、従業員も会社も元気になれる健康経営を推進することが求められていきます。

「健康経営優良法人認定制度」の活用が社内外へのPRに

健康経営を取り組むにあたって参考になるのが、経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」です。この制度は、2016年にスタートしており、大規模法人部門と中小規模法人部門の2つに分かれ、健康経営に取り組んでいる優良な企業・法人を顕彰しています。
現在の健康経営優良法人2023では、大規模法人部門では2,676法人、中小規模法人部門では14,012法人が認定されています。健康経営に取り組んで認定を受けていることは、社内社外を問わずPRとなります。近年、健康経営に取り組んでいる企業かどうかは、従業員や求職者、取引先などの関係企業や金融機関、地域住民など、企業を取り巻くさまざまな対象が注目をしています。「従業員を大切にしている企業と一緒に仕事がしたい」、そういう想いを持った人々が増えてきているのです。健康経営を推進していく過程で、健康経営優良法人認定制度にチャレンジをし、一つの形として評価を受けることが、企業にとっては大きな価値となります。また、地域や同業種のトップランナーとして他社との差別化の一歩となるような、有益な取組みとなっていきます。

参考:経済産業省 令和5年3月 「健康・医療新産業協議会 第8回健康投資WG」 資料より

今回は、「健康経営」をテーマにお話をさせていただきました。健康は日々変化をしており、健康づくりは1日でも早く取り組むことが重要です。1回や1日だけでなく、取組みが継続的になっていくことが健康経営のメリットです。会社も従業員も元気になる健康経営、ぜひできることからスタートをしてみてください。

小川 将司(おがわ まさし)

一般財団法人 明治安田健康開発財団
健康増進支援センター ユニットリーダー
小川 将司

『保有資格』
・特別上級トレーニング指導者(日本トレーニング指導者協会)
・健康経営アドバイザー

学生時代は陸上競技を専門とし、日本選手権1600mリレー優勝を経験。その後、運動指導者への道へと進み、日本体育大学スポーツトレーニングセンター、独立行政法人国立スポーツ科学センター(JISS)等にてオリンピックメダリストなどのトレーニング担当を歴任。
現職ではアスリート指導で培った運動指導のエッセンスを元に地域、企業の健康づくりを支援。
健康経営においては、健康経営セミナーの講師とともに、中小規模法人、大規模法人問わず、
健康づくり施策の提案や認定取得に向けたアドバイスや相談会など幅広い活動を展開している。